名古屋地方裁判所 平成4年(ヨ)636号 決定 1992年6月26日
債権者
伊藤節雄
同
一柳重雄
同
山田弘
同
貝沼茂顕
右債権者ら代理人
青木重臣
債務者
名古屋富田農業協同組合
右代表者監事
野間稔男
右債務者代理人
楠田堯爾
同
加藤知明
同
田中穰
同
魚住直人
債務者
野間稔男
同
鈴木弘運
同
立松政勇
同
後藤安夫
右債務者ら代理人
初鹿野正
補助参加人
村上利
右補助参加人代理人
郷成文
同
成瀬欽哉
主文
本件申立を却下する。
申立費用は債権者らの負担とする。
理由
第一申立の趣旨及び理由
本件記録中の仮処分申請書記載のとおり
第二事案の概要
一本件は、債権者らが、平成四年六月二八日午後一時三〇分に開催予定の債務者名古屋富田農業協同組合(以下「債務者組合」という)の臨時総会は、権限のない債務者野間稔男、鈴木弘運、立松政勇、後藤安夫(以下「債務者元監事ら」という)が招集した違法なものであると主張し、その開催を停止する仮処分を求めた事案である。
二争いのない事実
債権者らは債務者組合の役員(組合長、理事二名、代表監事)である。債権者らとその反対派は債務者組合の経営をめぐって対立関係にある。
反対派は、平成四年五月一二日、正組合員総数の五分の一以上に当たる七五四名の同意があったとし、その署名簿を添付して、農業協同組合法(以下「農協法」という)第四〇条、債務者組合定款(以下「定款」という)三〇条により、役員改選請求書を提出し、二〇日以内に総会を招集することを請求した。
しかし、債権者らが二〇日以内に総会の招集をしないことを知り、平成四年五月二六日、正組合員総数の五分の一以上に当たる一〇二三名の署名捺印を集め、この名簿を添付して、農協法三五条、定款四一条二項に基づいて、二〇日以内に、役員改選を議題とする総会の招集を請求した。
債権者らは、二度の総会招集請求に対し、組合員総数の五分の一以上の請求又は同意があることの確認手続をすること、平成四年八月一二日に臨時総会を開催することを決めたが、二〇日以内に総会を開催しなかった。
債務者元監事らは、平成四年六月一六日、農協法三六条、定款四一条四項に基づき、理事が正当な理由がないのに総会招集の手続をしない場合に当たるとして、総会(平成四年六月二八日午後一時三〇分開催)を招集した。
三争点
(当事者審尋の結果、本件の争点は、農協法、定款の解釈であることが確認された。)
1 債権者らの主張
農協法四〇条、定款三〇条には、役員改選請求があったときは、総会を二〇日以内に招集するとの制約はない。役員改選を議題とする総会の招集請求も、役員改選請求が形を変えたものにすぎず、五分の一の同意を確認する手続や新役員を選任する手続に時間がかかることは、役員改選請求の場合と同様であるから、総会を二〇日以内に招集するとの制約はない。
仮に、総会を二〇日以内に招集しなければならないとしても、債権者らは平成四年八月一二日に臨時総会を開催することを決定し、通知・公告したこと、前述のとおり五分の一の同意を確認する手続や新役員を選任する手続に時間がかかることを考慮すれば、総会を二〇日以内に招集しないことにつき正当な理由がある。
2 債務者らの主張
役員改選を議題とする総会招集請求がなされときは、農協法三五条、定款四一条二項二号、三項に基づき二〇日以内に総会を招集しなければならない。役員改選を議題とする場合だけを除外すべき理由も明文の規定もない。
第三当裁判所の判断
一役員改選を議題とする農協法三五条、定款四一条二項二号に基づく総会の招集請求があった場合は、理事は、同法三五条、定款四一条三項の規定に基づき、請求のあった日から二〇日以内に総会を招集しなければならないと解される。そもそも、総組合員の五分の一以上の同意は、総会の招集請求をする場合は、等しく必要とされるものであるから、その確認手続に時間がかかることを理由に総会の開催を遅延させることは許されない。債権者ら主張の新役員を選任する手続に時間がかかること等の事由を考慮しても、役員改選を議題とする総会とその他の事項を議題とする総会とを区別し、前者については、二〇日以内に総会を招集しなくともよいとする理由は見出せない。
農協法三四条に規定する総会の「招集」とは、総会を開催することを決定し、その旨を組合員に通知し、実際に総会を開催することであり、同法三五条、これを受けた定款四一条三項の「招集」も同義と解されるところ、債権者らの指定した臨時総会期日(平成四年八月一二日)は、総会請求の日から約二箇月半も遅れており、同法三五条、定款四一条三項の規定する招集手続がなされたものと認められない。
二また、五分の一の同意を確認する手続や新役員を選任する手続に時間がかかることを理由に総会を二〇日以内に招集しないことは前述のとおり許されず、債権者らの指定した臨時総会期日も、農協法三五条、定款四一条三項の趣旨に反することは明らかであり、これらの事由をもって、農協法三六条、定款四一条四項一号の「正当な理由」とは認められない。
三結局、被保全権利の疎明がないというべきである。
よって、本件申立には理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官本間健裕)